« AIAアメリカ建築家協会のCPD制度の概要 | トップページ | 建築物の安全確保のための制度づくり »

2006/01/24

アメリカから見た耐震強度偽装事件

JIA緊急シンポジウム報告060123

「どう守る建築の安全・安心」~私たちは「建築士法」の改正を主張します~


 (社)日本建築家協会主催の、耐震強度偽装事件の再発防止に向けたシンポジウムに参加してきました。パネラーには、被害に遭われた住民の方をはじめ、弁護士、建築家、そして「建物探訪」でお馴染みの渡辺篤史が参加されて、約3時間にわたって内容の濃い議論が提議されました。私にとって特に聞きたかったのは、わざわざこのためにニューヨークから来て頂いた建築家の芦原信孝氏の意見でした。芦原氏はアメリカ在住の日本人建築家として永くニューヨークにて設計活動をされている方です。私と同じく、アメリカ建築家協会の会員ですが、永くニューヨークにて建築の実務をされている方の意見を聞くことで、今まで私の中で不明確だった知識が随分と整理された気がしますので、いくつか芦原氏の意見を私の理解した範囲でご紹介したいと思います(文責:米澤)。

1.芦原氏には、日本のNHK等のTVで報道された議論の内容が、ピントがずれているか間違っていることのように思われてびっくりした。第一に建物は人間にとって安全でないということはあってはならないことである。

2.建築確認も含めて、役所等の権限を持った人達がコントロールするという考え方だけでは問題は解決できない。役所の責任の所在確定には問題があって、アメリカでは最終的な責任の所在は設計を行った建築家個人にあると考えられている。数年前にニューヨークで起こった建築の容積率違反の事件においても、それを見逃して建築許可を与えた役所の責任ではなく、容積率計算を間違えて建物を設計して建ててしまった建築家に責任があると判決が出て、ディベロッパーと建築家の責任で建物の上層部の数階分を撤去する判決となった(最終的には市の公共施設に超過した面積を提供することで折り合いがついたそうです)。

3.マンションの購入者に対しては、アメリカではディベロッパーが全責任を持つ。そのためには、ディベロッパーに資産があることも大事だが、銀行の責任と保険会社の責任が極めて大きい。ディベロッパーもマンションの建設に当っては、銀行から建設資金の融資を受けているはずで、アメリカでは融資をするに当っては、担保価値(モーゲージ)としての審査を行い工事の途中ではコントロール・インスペクターを雇ってチェックを行っている。日本の金融機関がそれを行っていないということは、融資の対象となる実物不動産の担保価値に関してなんらリスクを負っていないということで、アメリカでは考えられない。もし今回のような事件がアメリカで発生したら、住民(購入者)は担保不動産を銀行に返して負債を免れるので、銀行等金融機関が声を上げて責任の所在を追及することになるであろうが、日本では金融機関からの声は全く聞こえない。

4.検査機関に関しては、アメリカでは建築許可の権限は行政のみにある。ただし、設計者である建築家自身が責任を持って建築行為を行うことを宣言すれば、役所の審査を受けずに許可を受ける方法もある(セルフ・サーティフィケート)。いわゆる工事の中間検査(工事期間中の検査)に関しては、コントロール・インスペクションと称して、通常建物の発注者(オーナーまたは金融機関)の費用で民間のインスペクターを雇って行っている。

5.日本では建築家の権限と責任は曖昧な点も多いようだが、アメリカではその責任は極めて大きい。アメリカでも西海岸では、日本のように施工業者やその他のコーポレーションが建築家を雇って設計事務所を開いて建築の設計を行うことが認められているが、東海岸では施工を行うことと、設計を行うことは利害が対立することとして兼業することは厳しく制限されている。ニューヨークなどアメリカの東海岸では建築家の仕事は「プロフェッショナル」とみなされ、設計事務所の開設主体は個人かパートナーシップかプロフェショナル・コーポレーションの何れかで、主宰者はライセンスを持った建築家に限られている。ロックフェラーの言葉にあるように、企業活動の形態には「プロフェッショナル」か「エンタープライズ」の2つがあり、後者が出資者に対する配当など営利を目的として活動するのに対して、「プロフェッショナル」は営利を活動の目的としていない。

アメリカでは契約関係を通して常にチェック・アンド・バランスが働き、そして、そこにかかわる人達にはビジネスとして損をしないというインセンティブが常に働いているという事が背景にあり、これは世界から集まった人々がつくったアメリカという多民族国家だからこそ出来た必要なシステムだとのご意見をお聞きして、日本でも大いに参考になるのではないかと思いました。

(文責:米澤)

|

« AIAアメリカ建築家協会のCPD制度の概要 | トップページ | 建築物の安全確保のための制度づくり »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« AIAアメリカ建築家協会のCPD制度の概要 | トップページ | 建築物の安全確保のための制度づくり »